奇妙な歌謡曲探求1 石原裕次郎「錆びたナイフ」

錆びたナイフ
歌:石原裕次郎 作詞:萩原四朗 作曲:上原賢六

砂山の砂を 指で掘ってたら
まっかに錆びたジャックナイフが 出て来たよ
どこのどいつが 埋めたか
胸にじんとくる 小島の秋だ

 裕ちゃんファンも、いまや後期高齢化していることだろう。
 それでもこんな歌は懐かしいのではないだろうか。

 それにしても、常識のある人なら唖然としてしまう歌詞ではある。

 裕ちゃんが「小島」というのだから、たぶん新島あたりか。
 その砂浜から、錆びたジャックナイフが出てきた。
 おそらく大多数の人は、「こんなところにナイフ! 危ないじゃないか」と思うだろう。
 場所柄、大勢の人が海水浴に訪れるような場所に違いないからだ。
 「どこのどいつがうずめたか」とは誰しも考えるが、しかし裕ちゃんは怒っていない。
 「胸にじんと来る」のである。

 2番の歌詞では、

薄情な奴を 思い切ろうと
ここまで来たか 男泣きしたマドロスが
恋のなきがら 埋めたか
そんな気がする 小島の磯だ

 つまり裕ちゃんは、想像上の失恋男性を胸に描いて、妙に共感しているのである。
 「危ない」と思う以前に、ロマンの世界に入ってしまっている。実に幸せな人だ。

 3番の歌詞では、

海鳴りはしても 何も言わない
まっかに錆びたジャックナイフが いとしいよ
俺もここまで 泣きに来た
同じおもいの 旅路の果てだ

と、とうとうナイフがいとしいとまで言っている。アンタ、常識ってものはないんかい?

 実はこの歌詞、元歌がある。石川啄木の、

いたく錆びしピストル出でぬ砂山の砂を指もて掘りてありしに

という短歌だという。
 啄木を愛唱していた作詞家の萩原四朗が、この歌をヒントに、ピストルをナイフに置き換えて作ったのだそうだ。

 もちろん啄木は、ピストルを「いとしいよ」なんて言ってはいない。

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