「も」のもんだい

 駅から雨にも濡れずに買い物ができる。なるほど、客にとっては便利だ。で、それで?
 「雨にも」の「も」って何だろう。「も」というぐらいだから、雨以外にも何かあるはずだ。何が言いたいのだろう。
 雪か。しかしこの店は東京にある。そうそう雪に降られることもなく、あえて雪を例に挙げる必要もなさそうだ。

 この看板を手がけた広報担当者は、ひょっとすると「雨に濡れずに」と最初は作ったのかもしれない。しかしその文言にいささかインパクトの不足を感じたのではなかろうか。つまりそれだけではこの店の立地の優位性を強調することができない、と。
 本当なら、「雨にも濡れず、ヤリにも濡れず」くらいの衝撃的なキャッチコピーを考えていたとも考えられる。しかし「ヲイヲイ、そりゃないだろう」と上司にクレームをつけられ、おとなしく引っ込めたのかもしれない。だが担当としては意地がある。せめて「も」だけでも残そうではないかと、密かに画策した、というわけなのである。

 何かを強調したいという情動だけがあって具体的手段がないとき、人はつい、余計な言葉を口走ってしまう。この文章はその典型例だということができよう。

(撮影地:東京都町田市)