蕎麦屋である。
この日は水曜日、休みであった。しかも定休日。
しかしこの定休日、ただの定休日とはわけがちがう。
看板をよくご覧になっていただきたい。「本日は定休日とさせて頂きます」とある。
つまり、いつもの定休日ではない、臨時に定休日にしたという定休日なのである。
定休日とは常に一定の曜日に休むからこそ定休日であって、臨時に休むのは臨時休業ではないのかという、論理的な疑問はそりゃ確かにもっともだ。筋論である。
しかしこの看板は、そんな硬直した論理などものともせず、堂々と「本日は定休日とさせて頂く」、臨時の定休日があってどこが悪い?と開き直っているではないか。
店主のこの勁い意思を慮ることこそが、この看板の読み方なのである。
[ もう少し精神分析的な見方をするならば、このような自家撞着看板が生み出された一因として、「させて頂く」等のへりくだった物言いが挙げられる。「定休日です」の一言がお客さまに対して冷ややかであるとの印象を店主は抱いたのであろう。それを避けるための「させて頂く」が、「定休」の意味を変えてしまったのである ]
(撮影地:神奈川県相模原市)
了