敵は町内会にあり その3

 役員会で私と共同歩調をとりつつあるZ氏にはある持論があった。
 予算案に毎年盛り込まれている寄付金である。
 町内会でも色々いきさつはあったらしいが、現在は、例えば赤い羽根共同募金なら300円×全戸数が予算に組み込まれている。
 当然ながら、任意であるべき募金の強制徴収はおかしいという声は前からあったらしい。しかし個別徴収が面倒であるなどの理由で(本来その募金が必要かどうかなどの議論はなしに)、町内会費に上乗せする形で予算の中に組み込まれてきた。

 ネットで調べてみると、その問題とそれに関する議論が山ほど出てくる。
 決定的なのは、「募金の強制徴収は違法」という最高裁判例が確定していることだ。
 私たちと同じ滋賀県の人たちが訴訟を起こしており、一審敗訴、二審大阪高裁で勝訴、そして2008年4月に、最高裁は二審を支持して住民の勝訴が確定した。
 任意であるべき募金を強制徴収するのは、思想信条の自由を侵すものであり憲法違反である、という判断である。

 ネットでこの判例を見つけ、コピーしてZ氏に渡すと、最高裁判決のことは知っていたとのことであった。ひょっとすると彼は、この問題を常々気にしていながら、町内会ではっきり提示する機会を待っていたのかもしれない。

 わが町内会の予算案に組み込まれている寄付は、もともと「上部団体」であるN町内会からの要求である。
 以前の役員会が、寄付金だから少なくてもよいだろうと判断して半額で上納したら、N町内会からお叱りを受け、再度満額にして支払ったという事件があったらしい。
 N町内会は寄付を事実上強制しているのである。

 ならば、一度N町内会会長に話を聞こう、寄付問題をどう考えるのか、私たちの予算案を組むにもこのことははっきりさせるべきだと、我が町内の会長と副会長、つまりY氏とZ氏と私が連れ立って、先日N町内会の事務所を訪問した。
 会長は不在で、副会長なる人物が応対した。
 終始横柄な、人を見くだす態度のタメ口である。
 質疑応答の内容をひと言で表すなら、「おたくら、N町内会のやり方に不満があるなら出て行ってもらっていいんですよ」である。
 金が集まらなければ事業ができない。他の町内は全部きちんと払っている。文句があるなら独立すれば? という理屈。

 ひとつ面白かったのは、Z氏が最高裁判決のことを言いかけた時である。
 副会長は間髪をいれず「募金のことやな」とひと言、自ら口にした。
 知っているのである。知ってはいるが、知らないふりをしてカネ集めをしてきたのに、こいつらまた面倒なことを持ちだしやがって…という顔色だった。

 いずれにしても、N町内会側としては金を集めろの一点張りである。法律論になるとまずいから「極端なこと言われても困る。頑張って集めてくれ」というところで曖昧に逃げを図った。

 しかしまぁ、募金、寄付の類が強制徴収できないのは事実上認めているので、われわれとしてはこの時点で寄付金類を予算案から外すという腹が決まった。
 集まった額が少なくても、最高裁判決という後ろ盾があるかぎり文句は言わせない。

 ちなみに、もともとこのN町内会のある地域は昔から裕福な土地柄として有名であったらしい。
 広大な土地を所有していて、20年ほど前にはこの地に新キャンパスを作る某私立大学に62ヘクタールの土地を売却している。
 当然ながら億単位の金を、N町内会は持っているのである。
 聞くところによると、傘下の町内会が無心すると、その時の会長の気分ひとつで大枚が積まれるのだそうである。

 つまりこの町内会は、名目上の会則はあるものの民主的運営などとは程遠く、ものごとは中心メンバーだけで決めるというやり方を採っているムラである。
 戦前のようなどころか、それをはるかに通り越して、構成員の中心メンバーの頭のなかは江戸時代といってよい。
 戦後民主主義などというものは、このムラを素通りしてしまい、誰も知らないのである。

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