第一想を捨てよ

 川柳仲間の一人からメーリングリストに流されたメールに、こういう書き込みがありました。

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今日の新聞を読んで、自然に出てきた川柳↓

   買い物をしたことない人税いじり
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 この句を見て、すぐに思い出したのがこんな句。
 
 発泡酒飲まぬ政治家税を決め
 
 これは、2013年に開かれた「なくそう!官製ワーキングプア・大阪集会」のワーキングプア川柳への応募作品の一つです。
 そのとき選者を頼まれていた私は、この作品を入選作に選び、次のような選評を書きました。

 「赤坂の料亭で酒を飲んでいるような政治家連中に、庶民の暮らしはわからない。発想は新しくないがきれいにまとめている」。
 
 ところが入選作を決定した直後、私の極秘川柳諜報機関から「その句にそっくりな句があるよ」との情報が入ってきました。それは、

 2005年ころの「サラリーマンお酒の川柳」で公開されていた句、

  発泡酒飲まぬ役人税を上げ

でした。

 この2句の違いはたった2つ、「政治家」と「役人」、「決め」と「上げ」です。

 句の発想自体、冒頭に掲げた句もあわせて、「庶民の生活を知らない人間が税金をコントロールする立場にいる」という批判的な視点が基本にあります。
 その事実は過去からほとんど変わらないわけですから、以前から類句があっても不思議ではありません。

 しかし 発泡酒飲まぬ政治家税を決め は 発泡酒飲まぬ役人税を上げ と発想も全く同じ、かつ表現方法も同じです。
 もしも発想は同じだが表現が違っていたり(冒頭句がその一例)、表現は似ていても違うことを言っているのなら問題はないと思いますが、この場合は「パクリ」の可能性がかなり高いと判断し、急遽、発表直前に入選を取り消しました。

 (それ以外にこのときには、完全に同じ句がインターネットにあるのを見つけた例もあります。盗作の可能性もありますが、作句本人が先に発表してしまったというケースも考えられます。ただ、公募の場合は未発表新作が原則ですから、その場合も当然ボツです)

 というわけでそのときは一応の決着を見ました。
 しかし、本当に盗作あるいはパクリであったかどうかはわかりません。
 俳句も同様ですが、短詩系の文芸にはつねにつきまとう問題です。

 句を作る側が配慮すべき点のひとつが、昔から言われる「第一想を捨てよ」です。
 第一想、つまり最初に頭に浮かんだもの、は誰もが同じような発想をする可能性が高いということ。
 これをそのまま句として発表してしまうと、似た句のオンパレードになり、時には盗作を疑われる句になりがちだということです。
 そのためには、第一想は捨てること。これが川柳づくりの基本。同想句を避ける、一種のセキュリティといえるでしょう。

 川柳作家の時実新子さんなどは、第一想はおろか、第二想も捨てろ、第三想も捨てろと言っています。
 もし第一想で数十句をあれこれ作ったと仮定すると、第三想を捨てる段階でひとつのアイデアに対して100句以上の句を作り推敲しなければならないということになるのかもしれません。

 冒頭に紹介した句には「今日の新聞を読んで、自然に出てきた川柳」と正直に書かれていますが、つまりそれは第一想であることの告白です。
 他人の句との差別化ができていない段階だからこそ即座に別の類句が思い出されてしまうわけで、まだまだ推敲不足だということになるのだと思います。

※ 以下のサイトが参考になります。
 川柳家の尾藤一泉さんの「作句のポイント」
http://regist.orix-mail.net/cd/senryu/mamechishiki/
 なおここでは句が分かち書きをされています。ご本人はこのような表記には反対されていますので、おそらく編集部が勝手にやったものと思われます。
 

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