わかる

文章としては必要な情報が欠けていて正しくないのだけれど、でも意味はちゃんと通じるという言葉がある。

これもそのひとつか。

まさか「飲酒運転」という人が店に入ってくるわけではなかろう。「飲酒運転をする人」「飲酒運転をしがちな人」とでもすれば正しいか。しかし文章は長く、理屈っぽくなる。

その点、この「飲酒運転 入店お断り」は潔く、伝達力がある。

(撮影地:神奈川県相模原市)

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表示義務

土用の丑の日、近鉄百貨店のデパ地下(正しくはデパ1F)で買ったうな重についていた山椒粉。袋にはこうある。

     <表示義務のある添加物は使用していません

何とも大胆、かつ正直な表示であることか。

「添加物は使用していません」と書くと、実は使っているためにウソになる。

かといって、表示義務もないのにわざわざ「○○を使っています」などと書く必要もなく、また、よけいなことを書けば消費者からにらまれる。

そこで上記のようになった‥‥のではないかとたんけん隊は推測している。

ただ、「○○使用していない」との表記は、当然「○○以外使用している」を含意する。

だからこそ「大胆、かつ正直」とたんけん隊は感心したのであった。

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保温性能

これは、ある二重構造になったマグカップの製品説明書。

二重構造になっているから魔法瓶スタイルのカップなのだろうと勘違いして買ってしまった。この説明書によると、沸騰直後の95℃の熱湯を注いで24時間後の湯温(水温?)は21℃となっている。

画面から切れてしまっているが、右上の「室温」のところは20℃と表記されていた。

95℃のお湯が、24時間後には室温とほぼ同じ21℃になっているということは、つまり完全に冷めてしまっているということにほかならない。

これのどこが「保温」なのか。

保温効力というからには、「まだこれだけ温かい」という主張が必要だ。それができないのなら、むしろ「この製品には保温能力はありません」とすべきだったのでは?

犯罪

これは以前の投稿「不正使用」と同工異曲といってよい。

犯罪とは法を犯すことなのだから、「不法」投棄が犯罪なのは当たり前のこと。同義反復の典型例だ。

なぜこのような表現がしばしば見られるのか。

この種の注意書きの特徴は、単に注意を促しているのではなく、行為者に対して「お前のやっていることは犯罪なのだ」と一種の恫喝を加えているところにある。

恐らくは書き手自身が意識することなく、権威・権力の高みに立った物言いがなされているわけだ。ある意味そのことの方がコワい気もする。

(撮影場所:滋賀県草津市)

お願い

小学校の校門に掲げられた「お願い」。要は開けたら閉めよ、というごく普通のマナーを期待してのお願い文だ。

が、よくわからないのはその前文。「門扉は通常閉じています」。うん、通常閉じてるよね。それがどうした?

この文章はそもそも何なのか。「お願い。出たあとは門を閉めてください」だけで十分なのではないか。

こういった文は、業界用語でいういわゆるリダンダンシー、つまり余剰性の一種と言えなくもない。これがもし逆の表現だったら‥‥例えば「門扉は通常開いています」であったなら、この文は意味を持つ。つまり普段は開いているのだが、今日は特別に閉めて行ってください」であれば、リダンダントな表現ではなくなる。

なぜわかりきった余計な文章がくっついているのかという点を考えてみると、しばしば、そこに書き手の心理状態の現れを読み取れる場合がある。

この場合の書き手は、門を閉めろという結論を言うだけでは不満なのだ。「我々は普段から門をきちんと閉じているのだ。だからお前も、そういったマナーに従って、正しい行動をとるべきである」‥‥そのように道徳的な立場を主張したくて仕方がないのである。

書かなくても済むことを心ならずも書いてしまったという場合、心の中を見透かされる恐れがあることを肝に銘じたいものだ。

(撮影場所:滋賀県草津市)

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