ことば」カテゴリーアーカイブ

犯罪

暴力行為というものは、ことごとく犯罪だと私は思い込んでいた。

ところがこのJRのポスターによるとそうではないらしい。

駅や車内での暴力行為が犯罪なのだそうだ。今まで知らなかった。

暴力をふるいたい人は、電車を降りて、駅を出てから実行されるとよろしい。あるいは家庭内でも許されるのかもしれない。

強調しようとして使う特定の修飾語が、変に対象を限定してしまうことがある。このポスターはその典型だろう。

よくJRの構内で「今度の列車は長い10両編成です」などというアナウンスを聞く。「長い10両編成」があるのなら、短い10両編成もあるのか? と突っ込みたくなるのだが、そんなものはない。車両の長さは同じなので、短い編成なら8両とか6両とか。この場合の「長い」は10両を修飾しているのではなく、並列の意味だ。しかしまぎらわしい。

(撮影場所:神奈川県海老名市)

完全にかけない

お茶の袋である。

ある良心的な生協から購入したもので、生産している茶園では完全無農薬でお茶を作っている。一般の野菜と違い、洗わずに製品化されるだけに、お茶に限っては無農薬のものしか安心して購入できない。

さてところが、この「完全に農薬をかけないお茶」というキャッチコピーにクレームがついた。というか私がつけた。これはどういう意味なのかと。

「完全に農薬をかけない」ということは、不完全にはかけたという意味なのか。というのはこの文では、「完全に」は「完全には」という意味にも読めるからだ。

仲間と議論をしているうちに、さらに別の観点から疑問が呈された。

なぜ「農薬をかけない」と言うのだろうか、と。「農薬を使っていない」となぜ言わないのだろうか、と。

深読みすれば、実はこの茶園では土壌は農薬で汚染されているが、新たに農薬を撒くことはやっていないので、それで「かけない」とは言えても「使っていない」とは言えない事情があるのではないかと。

そういう読みが可能であるなら、単に日本語の表現の問題ではなくなってくる。真偽を確かめなくてはならない。

もしも完全無農薬のお茶であるなら、なんと表現すればよいか。

・完全無農薬のお茶 ––– 表現が硬い?

・農薬を全く使っていないお茶 ––– これならよいかも。

そもそも、副詞(用言を修飾する)は修飾される語にできるだけ接近して用いるのが誤読を避けるための文章術の鉄則だ。

しかしこの「完全に」は、そうやっても今ひとつわかりにくいという不思議な性質がある。つまり「無農薬を完全にかけないお茶」としても、あまり変わりばえがしないのだ。

地下鉄

これをおもしろ日本語と言うべきかどうか迷う。

私にとっては「ふしぎ日本語」。

四角い枠に数字が書いてあって、これが地下鉄の路線に関するものだとわかっている場合、誰がこの数字を時間以外のものと間違えるだろうか?

しかも「当駅から目的駅までに要する時間を分単位で表した」と、なぜここまでクソていねいに説明しなければならないのか、よくわからない。まさか日数と勘違いする人もあるまい。

もし必要だというなら、上の段の赤丸の数字も同様に説明すべきだろう。

順番に並んでいて、おそらく駅のナンバーであろうということは予想がつくから要らないとするなら、やはり同程度に下段の数字も推測できるから、説明は要らないというものだ。

(撮影地:京都市営地下鉄東西線山科駅)


立入禁止

立入禁止にも色々あるが、「犬の散歩」を立入禁止にしているのは全国でも珍しい。

犬に対して禁止しても文字が読めないからダメだと判断したのだろうか。しかし飼い主は読めるはずなのだが‥‥。

犬の散歩が抽象化され生霊のようになってこの地域を徘徊するので、漂えるその霊に向かって立入禁止を訴えているのかもしれない。

(撮影地:神奈川県相模原市)


定休日

蕎麦屋である。

この日は水曜日、休みであった。しかも定休日。

しかしこの定休日、ただの定休日とはわけがちがう。

看板をよくご覧になっていただきたい。「本日は定休日とさせて頂きます」とある。

つまり、いつもの定休日ではない、臨時に定休日にしたという定休日なのである。

定休日とは常に一定の曜日に休むからこそ定休日であって、臨時に休むのは臨時休業ではないのかという、論理的な疑問はそりゃ確かにもっともだ。筋論である。

しかしこの看板は、そんな硬直した論理などものともせず、堂々と「本日は定休日とさせて頂く」、臨時の定休日があってどこが悪い?と開き直っているではないか。

店主のこの勁い意思を慮ることこそが、この看板の読み方なのである。

[ もう少し精神分析的な見方をするならば、このような自家撞着看板が生み出された一因として、「させて頂く」等のへりくだった物言いが挙げられる。「定休日です」の一言がお客さまに対して冷ややかであるとの印象を店主は抱いたのであろう。それを避けるための「させて頂く」が、「定休」の意味を変えてしまったのである ]

(撮影地:神奈川県相模原市)