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手摺りにご注意

別に何の変哲もない注意書きである。

しかし問題が一つ。何に注意すればよいのか分からないということだ。

駅の階段にある手すり。金属製で、触れば壊れるようなやわなものではない。ペンキ塗りたてであるわけでもない。通路に飛び出していて階段の昇り降りに差し支えるのかというとそんなことも全くない。

足元に注意とか、天井の鳩のフンに注意とか、漏水注意ならわかるのだが‥‥。

いくら考えてもわからず、きょう、たまたまこの駅を利用したので駅員に尋ねてみた。

「手すりのつなぎの部分にテープが巻いてあるでしょう。そこがでこぼこしているので注意をしているんです」

よく見ると、確かにビニールテープを巻いたような部分がある。しかし注意書きはその真上にあるのではなく、その個所の左右2メートル以上離れた個所にあるのだ。

なるほど、階段を昇る人のために問題の個所にさしかかる手前右下に注意書き。

階段を降りるひとのためには同じ個所の手前左上に注意書き。

と、2ヶ所に注意書きが貼られていたのだった。

しかし、やはり意味は分からない。手すりにテープが巻いてあって多少でこぼこしているとはいえ、足元のでこぼこではないのだからそこにつっかかって倒れる人があるとも思えない。

そもそも注意をする必要があるのかどうかが疑問。そして注意をするのなら、もっとわかりやすく、「ここに注意 ↓」とでもしておけばよい。

駅員に、そのように提言してみたが、まるで蛙のツラにナントカというような表情でヘラヘラっと笑っていた。

(撮影地:神奈川県相模原市)

堅くご遠慮

中程の文章にご注目いただきたい。

「堅くご遠慮申し上げます」とある。

普通遠慮というのは「そっと」するもので、「堅く」主張したり宣言したりするものではない。

何といえばいいのかなぁと思案していたら、かたえの言葉を生業とする友人がこういった。「堅くご辞退申し上げます」だろう、と。

確かにそれが正解だ。このポスターの作成者は、きっと「堅く」と強い言葉を使ったことに自ら躊躇して、柔らかく「遠慮」とトーンを下げたのだろう。その心遣いには感心するが、全体の文言の散漫さには寒心しなければならない。

他の部分の文章についても、イチャモンをつけようとすればいくらでもつけられる。例えば「平等、公正にすることを第一」なら、治療は第二なのか? とか。

待ち時間のあまりの長さに、こんなツッコミばかり考えてしまったのであった。

(撮影地:神奈川県相模原市)

おもてなし

焼肉店である。

注目したいのは5行目の文言。

「ほんものだけ」をおもてなし とある。

「ほんもの」とは、この場合高級な肉を意味しているのであろう。

となると、「おもてなし」は一体どうなるのか。

「もてなす」の目的語は人である。客である。お客さまをもてなすわけだが、となるとこの店では、高級なお肉をもてなすらしい。肉をもてなしてどうする?

おそらくは、高級な肉でもってお客さまをもてなす、と言いたいのだろう。だとすれば、正しくは、

「ほんものだけ」でおもてなし

とすべきではないか。

いや待てよ、「ほんもの」は肉ではなくて、客のことを言っているのだろうか。

素性のわからぬ下賤の輩ではなく、元華族といったような「ほんものの客」だけをもてなすと言いたいのかもしれない。となると我々には縁のない店。

ランチがお一人様10万円などと書いてないか、調べる必要がありそうだ。

(撮影地:滋賀県草津市)

一時利用


駐輪場看板の、この鮮やかな同語反復をどう評価すべきだろうか。

「利用できます」のところは時には別のカバーが覆うことになっていて、その場合には「利用できません」となる。

「利用できます」と「利用できません」を切り替えるアイデアはよかったのだが、頭に「一時利用」を持ってきたために煩くなってしまった。

むしろ「できます」「できません」の2つにすればよかったのだが、「一時利用はただいまできます」としたときの愛想なさに、担当者は深く悩んだのである。

かといって、「ただいま一時利用できます」とすると、「一時、利用できます」と読まれて、この駐輪場が臨時に営業しているかのように誤解される恐れがある。表現を変えて「ただいま一時利用は可能です」とすれば、反対語は「不可能です」となり、これもまた堅苦しい。

悩み苦しんだ末、担当者はままよと、同語反復の道を選んだのであった。しかし未だ、駐輪場への道はイバラの道である。

(撮影地:東京都中野区)