おもしろ日本語」カテゴリーアーカイブ

お願い

小学校の校門に掲げられた「お願い」。要は開けたら閉めよ、というごく普通のマナーを期待してのお願い文だ。

が、よくわからないのはその前文。「門扉は通常閉じています」。うん、通常閉じてるよね。それがどうした?

この文章はそもそも何なのか。「お願い。出たあとは門を閉めてください」だけで十分なのではないか。

こういった文は、業界用語でいういわゆるリダンダンシー、つまり余剰性の一種と言えなくもない。これがもし逆の表現だったら‥‥例えば「門扉は通常開いています」であったなら、この文は意味を持つ。つまり普段は開いているのだが、今日は特別に閉めて行ってください」であれば、リダンダントな表現ではなくなる。

なぜわかりきった余計な文章がくっついているのかという点を考えてみると、しばしば、そこに書き手の心理状態の現れを読み取れる場合がある。

この場合の書き手は、門を閉めろという結論を言うだけでは不満なのだ。「我々は普段から門をきちんと閉じているのだ。だからお前も、そういったマナーに従って、正しい行動をとるべきである」‥‥そのように道徳的な立場を主張したくて仕方がないのである。

書かなくても済むことを心ならずも書いてしまったという場合、心の中を見透かされる恐れがあることを肝に銘じたいものだ。

(撮影場所:滋賀県草津市)

.

住宅内は無理

この辺には暴走族が多いのかもしれない。

そうでなくても、旧街道など狭い道が多い上に、何の規制もなく車を通していて、歩行者にとっては大いに迷惑。

しかしこの看板はそんな生易しいものではない。何しろ住宅内、つまり家の中で飛ばすなと言っている。

どんな大きなお屋敷か知らないが、住宅の中を走られてはたまったものではないだろう。そんな暴走族がいるのだろうか。

一言「地域」とでも付け加えてもらっていたら納得の行く看板になっていたのだが、あまりの暴走ぶりに、警察もうろたえてしまったのだろう。

(撮影場所:滋賀県草津市)


不正使用

不思議なのは「不正使用」という言葉。

法的に不正だったら、法律上「できません」は当たり前ではないか。

「道路の使用はできません」(これ自体ちょっと変な日本語だが)だけで十分ではなかろうか。

察するに、「使ってはいけない」という告知だけでなくて、「ここを使うことは不正なのだぞ」ということ、つまり「犯罪行為」を強調したい気持ちが、このような文章を書かせたのではないだろうか。

と書いたところで、ある人からコメントをもらった。「不正使用」というのは、どうやら警察のテクニカルタームらしいというのだ。あるいはまぁ、警察官僚の慣用表現なのか。裏をとってはいないので、正確なところをご存じの方にお教えを乞いたい。

(撮影場所:東京都文京区)

.

犯罪

暴力行為というものは、ことごとく犯罪だと私は思い込んでいた。

ところがこのJRのポスターによるとそうではないらしい。

駅や車内での暴力行為が犯罪なのだそうだ。今まで知らなかった。

暴力をふるいたい人は、電車を降りて、駅を出てから実行されるとよろしい。あるいは家庭内でも許されるのかもしれない。

強調しようとして使う特定の修飾語が、変に対象を限定してしまうことがある。このポスターはその典型だろう。

よくJRの構内で「今度の列車は長い10両編成です」などというアナウンスを聞く。「長い10両編成」があるのなら、短い10両編成もあるのか? と突っ込みたくなるのだが、そんなものはない。車両の長さは同じなので、短い編成なら8両とか6両とか。この場合の「長い」は10両を修飾しているのではなく、並列の意味だ。しかしまぎらわしい。

(撮影場所:神奈川県海老名市)

完全にかけない

お茶の袋である。

ある良心的な生協から購入したもので、生産している茶園では完全無農薬でお茶を作っている。一般の野菜と違い、洗わずに製品化されるだけに、お茶に限っては無農薬のものしか安心して購入できない。

さてところが、この「完全に農薬をかけないお茶」というキャッチコピーにクレームがついた。というか私がつけた。これはどういう意味なのかと。

「完全に農薬をかけない」ということは、不完全にはかけたという意味なのか。というのはこの文では、「完全に」は「完全には」という意味にも読めるからだ。

仲間と議論をしているうちに、さらに別の観点から疑問が呈された。

なぜ「農薬をかけない」と言うのだろうか、と。「農薬を使っていない」となぜ言わないのだろうか、と。

深読みすれば、実はこの茶園では土壌は農薬で汚染されているが、新たに農薬を撒くことはやっていないので、それで「かけない」とは言えても「使っていない」とは言えない事情があるのではないかと。

そういう読みが可能であるなら、単に日本語の表現の問題ではなくなってくる。真偽を確かめなくてはならない。

もしも完全無農薬のお茶であるなら、なんと表現すればよいか。

・完全無農薬のお茶 ––– 表現が硬い?

・農薬を全く使っていないお茶 ––– これならよいかも。

そもそも、副詞(用言を修飾する)は修飾される語にできるだけ接近して用いるのが誤読を避けるための文章術の鉄則だ。

しかしこの「完全に」は、そうやっても今ひとつわかりにくいという不思議な性質がある。つまり「無農薬を完全にかけないお茶」としても、あまり変わりばえがしないのだ。